尾行なんぞをやってみる 「2、お隣さんが発見!」


赤いポストは何思う?お隣さん追う、お隣さん。

「およよよよ???」

 その後。またしても予想外の展開が待っていた。早月は、更におかしな行動をとる。遠回りした癖にどこにも寄らず、すぐにいつもの通学路(少なくとも、あたしの)に戻ったのだ。意味不明。何で? どこかに寄ろうとしたけど止めた? それとも閉まってた?

 ・・・いや、そんな訳無いか。だって、まだそんなに遅い時間じゃない。じゃあー間違えたとか?

 ・・・あり得ない。あたしだって、この近辺は相当知り尽くしている。早月が間違えるわけがない。

 何やってるんだ。あいつ?

 そう思いながら早月の後を追う。いつもの通学路。家までは、あと半分ほど。歩き慣れた道も、こうやって歩いていると緊張感があるというか。まあ、隠れる場所とかを探しながら歩いている自分が一人おかしいだけだけど。

 早月は、再び携帯を取り出した。今度は間違いない。僅かに見えた発光する画面。それに、何か操作をしている。

「?」

 誰かに何かの確認でも頼まれたんだろうか? それで寄り道? そう思ったあたしの目の前で、早月は携帯を仕舞う。時間の確認かメールか。うーん。ミステリー・・・。

 そう思った瞬間、あたしの鞄の中で携帯が音を立てた。あれっ。あ、音消すの忘れてたっ。うわっ。まずい!

 そう思って、慌てて携帯を取り出そうとする。早月は、この着信音を知ってる。バレるバレ・・・。

「とっくにバレてるから」

「・・・」

 ・・・た。バレた。

 ぴた。鞄の中に突っ込んだ手も、体も、瞬きも止まった。

 そして見上げると、前にいるはずの早月が隣にいて、こっち見下ろしている。はい、そうです。「いつも通り」相当に呆れた顔をして。

「さっきから何やってんの? お前。尾行のつもり? バレバレだぞ?」

「・・・あ」

 誤魔化せ。取り合えず、笑って誤魔化せ。それが天からのお言葉である。というか、この手のお告げしか、あたしには降りてこない。

「あははははー。何言ってんの? そんな訳無いじゃん。てか、早月、何? 前にいたんだー?」

「アホ。迂回した時にも付いてきた癖に何言ってんだ」

「・・・」

 あらー。と、思う。バレバレだ。バレバレ。

「ま、まさかその為に迂回・・・」

「呆気ないほど、あっさり掛かったな」

 ばーかばーか。言葉ではそう言わなかったが、間違い無くそういう表情で早月は言う。

「ず、ずるい! 酷いー!」

 こっそり尾行して、えばってやろうと思っていた自分のことは棚に上げ、あたしは思いっきり叫んだ。くくく、くやじいーーっ。

 しかし早月は、ぜーんぜん取り合わない。あたしの背中をポンと押す。「はいはい。騒がない。帰るよ」とか言って。何その余裕。

「ぶーぶー」

「お前は豚か」

 そう言われてもしつこくブーイングしつつ、そこに立っていても確かにしょうがないから、あたしは早月の隣を歩き出す。

 そして結局、馴染んだその場所に、すぐに気持ちが緩んでしまった。しゅーん、と消えていくのが分かるイライラ感。ちぇっ。それも面白くない。

「・・・で、いつからバレてたの?」

 あたしは鞄を振り回しながら言った。せめて、早月には面白くないことを分からせておかないと。無理矢理にでもな。うん。

 早月? 勿論見てやしない。こんなに一生懸命鞄振り回してるのに、全然構う様子もなく、こっちを見もせず言う。

「結構前」

 たった一言。これだけ。何その態度。

「結構前って、いつー!?」

 じたばたして叫ぶと、早月は大きなため息混じりに言った。

「駅出て、すぐ」

「・・・・・・」

 不覚にも沈黙。だって・・・何その事実。

 ・・・そうなんだ。あはは。あはははは。・・・はー。そりゃまた、相当前ですね。それだけ前だと、もう悔しがる気も起きやしない。

 脱力もあり、鞄を振り回しているのは疲れて(どうせ見てないし)代わりにあたしは唇を尖らせた。早月? やっぱり見てやしない。なーんにも見てやしない。こんにゃろーっ。

 とは、思いもするけど。まあ・・・いっか。

 悪くない、この現状。何だか心中複雑だったけど、最早あたしにはどうでも良い話。今さえ良ければいい。それだけのことだ。結局。だから。



 うん。まあ、いいや。早月の隣は、悪くないから。いつだって、ね。





「ところでお前、帰り遅くない?」

 早月が時計を見ながら言った。あたしも見る。六時十分を過ぎていた。本当だったらもう家に着いていてもおかしくないけど、今日は迂回した為、あと五分くらいかかる模様。

「うん。尋ちゃんと康子ちゃんと、お茶してきたんだー」

「ふーん」

 そんな、どうでも良い話をしながら帰る家までの道。寒くて暖かい、長くて短い、何だかんだ言って楽しい時間。

 うん。悪くない。むしろ良い。

「楽しかったよー。二時間話しっぱなし」

「・・・二時間・・・」

 うへー。とか言って、早月は呆れ顔。

「良い迷惑だな。店も」

「何でよー?」

「大体、何を外で話すことが有るんだよ? 学校でも、これでもかって位一緒に居るんだろ? 三人で」

「女の子は、色々有るんだよ。うむうむ」

「小学生のくせに」

「しょ・・・違う! 女子高生だってば!」

 むきー! と叫んで、あたしは早月に食ってかかった。過敏なその反応に驚いたのか、早月は目を丸くする。

「・・・ムキになるなよ。そんなことで」

「だって、この間から小学生小学生小学生ってさー!」

 フグ。それとも無ければ頬に餌を詰め込んだリスみたいに、あたしは膨れた。それくらい、一生懸命膨らませてみた。だって、だってだって面白くなーい!!

 そのあたしに聞こえてきた、大きなため息と呟き。

「・・・女子高生は、あんまり『むきー』とか言わないと思うけど」

「うぐ」

 ・・・ごもっとも。




 ・・・と、まあ、こんな風に・・・例え、いつも笑ってる訳じゃ無くても、さ。







 ちなみに尾行中、あたしの携帯が鳴ったのは、早月がメールを入れたから。だった。

 家に帰って思い出し、見た携帯には「将来、探偵にだけはなろうと思うな」のメール。

 ・・・余計なお世話である。




尾行も、なかなか楽しいけれど。やっぱり慣れた場所が一番。


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