尾行なんぞをやってみる 「1、お隣さん発見!」


ポスト発見!後ろに隠れる?

「あれっ?」

 思わず、そんな言葉が口から漏れた。前を行く背中に見覚えがある。制服にも。

 ・・・あれれれ? あれは。

 減速し掛けた足は、自動的に加速。その背中に向かって。

 帰宅途中。駅のホーム。ごった返す人達の中。電車から降りたばかり。冷たい空気が頬を撫でた。

 階段に向かって歩き始めたあたしの視界に、映った彼。この中じゃ、多分お父さんの背中でも見付からない。だから、彼を見付けたのは間違いなく偶然。それとも無ければ、最近一番多く見ている背中、だから。多分。

 早月だ・・・。

 こんな風に帰宅時間が重なるのは、実は珍しい。理系クラスは補講や特別授業が多くて、大体早月の方が遅いのだ。まあ今日は、放課後に康子ちゃんと尋ちゃんとお茶をしていたあたしが遅くなっているのだが。・・・そんなことは、どうでも良い。

 早月、だよね?

 その背中を追った。追ったも何も、進む方向が一緒なのでそうならざるを得ない。

 見えなくなったり、よく見えたり。それを繰り返しながら睨むように見ていたその背中。見れば見るほど、見慣れた背中のような気がしてくる。

 うん。間違いない。

 証拠もないのに勝手に確信して、あたしは大きく頷いた。もう誰が何と言おうと早月。早月に決定!

 それを裏付けたのは、証拠がどうと言うより自信。早月の背中なら親御さんよりも、きっとあたしの方がよく見てる。そのあたしが言うんだから間違いない!! あれは、早月に違いないのである!! という・・・理論的(?)かつ強引な自信。よって、あれは早月なのである。

 だって間違いなーい。早月だ。あの背中。絶対絶対早月だもん。絶対絶対絶対絶対! あたしが早月といったら早月なのだ! 絶対!! 間違いない!!

 うんうん一人で頷いていたら、ちらりと横顔が見えた。それは見慣れた横顔。背中と同じくらい、よく見てる横顔。

 ほーら早月だ。ほーら見ろ。あたしは一人、胸を張って、ふんっと鼻息荒くふんぞり返った。 





 駅から家へは、徒歩で十分ほど。

 駅構内から出ると、急に頭の上は真っ暗になった。冬は夜が早い。

 早月は、一度だけ携帯を見た。後ろからじゃ良く分からないけど、多分。だって、ちょっとだけ画面の光が見えた気がしたから。

 あたしも、つられて携帯を見る。何もない。時刻は六時。

「・・・」

 あたしは改札口の混雑で近付けず、早月に声をかけ損ねたままだった。ちょっと先にいる早月。本当は改札を出たら声を掛けようと思っていたんだけど・・・。

 自分の携帯の画面と早月の背中を見ながら、ニヤリ。そして、携帯を閉じた。止め止め。早月にメールはしないのである。声も掛けないのである。だって、ふふふん。良いこと思い付いたから。早月を尾行してみよう。っていう・・・名案をね。

 帰る先は、お隣。尾行する理由があるわけじゃない。きっと何も無い、たった十分の道のりだ。本当は早月と一緒に帰った方が楽しいに決まってる。

 でも、これはチャンスである。チャンスなのである。早月を「ぎゃふん」言わせるチャンスだ。尾行して、後で早月の部屋に行ったら言ってやるのだ。「今日、実は後ろにいたのだ。ははははは」って。「気付かないでやんのー!」ってね。おお。いいかも。よし。驚け、早月! いつも、とろいとろい言いやがって。見てろよ!?

 変な復讐に燃えるあたし。下らない。下らない・・・が、一人で盛り上がっていたあたし。

 尾行開始である。





 歩き始めて五分程。尾行順調。ヤツは気付く様子もない。ふっ。油断しやがって。あたしが尾行していることも知らずに愚かよのう。くくくくく。

 家に向かって早月は歩いてまーす。今、角を右折。なんて、誰かに脳内報告をしながらあたしはその背中を追っていた。尾行なんて余裕じゃないの。簡単じゃないの。そう思いながら。



 ・・・が。



 あれれれ?

 早月は、急におかしな行動をとった。曲がらない筈の角を曲がる。家とは反対方向。

 およよ? 何故。

「??」

 どこかに寄り道ですか? そう思いながら、角で足を止めて迷った。どうしよう。どっかに寄られたら、あたし外で待ってるのなんか辛くない? 嫌だなぁー。待ちぼうけ。そう思って。

 角の向こう側を覗き見る。早月は、どんどん歩いていく。遠くなっていく。ど、どうしよう。行っちゃう。

 どうしよう? そう思ってから、一瞬後に閃いた。もしどこかに入ってしまったり遠くに行くようなら、素通りして帰ればいいのだ。それだけのこと。

 そうだ、そうだ。よし。

 何に興奮していたのか、鼻息荒くあたしは頷き、尾行を継続することにした。


 よくよく考えてみると、相当しつこい。あたし。しかし角を曲がった以上、もう後に引く気は無い! 行くところまで行ってやるのだ! そんな気持ちしかない。つまり、諦める気も皆無である。

 それ程までに、普段からかわれているのが面白くないんだと分かって欲しい。しつこいというか、意地だ。ここまでくると。

 とにかく狙うは、早月の「ぎゃふん」である。それを言わせるためなら回り道位してやろうじゃないか!

 なんて、 誰に頼まれたわけでもないのに、あたしは決意を新たに拳を握りしめ、早月の背中を追う。もう夢中だった。




 ・・・こんな風に、滅多にないチャンスを見付けると、人は逃すまいと躍起になる。余計な深追いをすると自らの足を引っ張ると言うことも知らずに。


こっそりひっそり尾行中。手紙を入れる人の邪魔にならないように気を付けましょう。


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