「お隣さん、推理する」
・・・推理? いえいえ。見ると、全てが分かります。



「・・・今日は何?」

 本日のお勤め(勉強)終了。お隣さんは振り返り、そう言った。しかし床に座って枕を抱きしめた彼のお隣さんは、顔を半分隠しただけで返事はない。

 静かだった。やけに静かだった。可笑しいくらい。無理に。

 たまーに、こういうことがある。このお隣さんは。

 でも、それには絶対理由があって、多分それはついさっき・・・昨日も一緒に居て何事もなかったことから、少なくとも朝から今までの間に生まれた物で。しかもその理由は、きっと想像出来てしまうくらい簡単で、その想像があり得ないくらいの確率で当たる物。・・・だと思われる。

 とにかく困ったことに、このお隣さんは何か言われたりされたりすると、すぐに反応して実行するのだ。全く、飽きもせず。・・・それに付き合う自分も自分だけど。

 さて、彼女は無表情だ。少なくとも、そう見せようとしているらしい。半分隠した顔の下で、本当は唇を噛みしめているんだろうが。

 それを見て、お隣さんは思う。

 うーむ。取り合えず最近の傾向を見ていると、この理由の出所はー・・・。

「・・・高橋さん・・・と、尋ちゃん・・・だっけ? お前の友達」

「!」

 ぴく、と右手の人差し指だけが反応する。

 しかし本人はきっと、気付いていないだろう。お隣さんが、それをちゃんと見ていることを。そして予想を確信に変えたことなど。「はい。そうです。その通りです」言葉で言われるよりもハッキリとした答えを貰って、彼は次のステップに進んだ。

 さーて、じゃあこの表情の訳は・・・。

 シャーペンの芯を机で引っ込めて、教科書とノートを閉じながらお隣さんは呟いた。

「・・・単純とか?」

 今度はぴくん、と手が強張るように反応。それを「まずい!」と思ったのか、お隣さんの目が一瞬驚いたように開く。

 一発でビンゴ。そう思って、それを見ていたお隣さんは、あまりの簡単さに小さなため息を付く。それと同時に、笑っちゃいそうになるのを堪えた。

「・・・簡単?」

 その言葉に、彼女の肩が強張った。体に力を入れて深く俯いて、彼女は顔を隠す。

 でも、お隣さんには無意味な行動。というか、あっさり肯定の答と受け取る。

「・・・分かり易い、かな? それとも顔に出過ぎ?」

 椅子から見下ろす彼女は顔を上げずに、でも後頭部から変な空気を出していた。ごごごご、と、もし雰囲気に音があったらそう聞こえるんではないか。なんて、お隣さんは想像する。

 彼女は「はい。その通りです。面白くないので、そろそろ発射します。秒読み入っています」。と言いたいのか、体にぎゅーって力を入れて肩を震わせている。これが分かり易いと言わずしてなんなのか。本人は分かっていないかも知れないが、彼女くらい分かり易い人間を、お隣さんは生まれて十七年間、見たことがない。

「んー。子供? それともー・・・あ、バレバレって言われたのか?」

「うるさぁーい!!!」

 美優が顔を上げて叫んだ。どうやら最後のが中心を射たらしい。

 彼女は、顔を真っ赤にして物凄い勢いで首を振った。

「違うもん!! そんなことないもん!!」

「どれが違うの? 言われたのが? それとも分かりやすいのが?」

 多分、どっちも正解ですけど。そう思いながら早月は問うてみる。

「どっちも違うー!!」

「あ、そう。でも『本当は違くないですけど、面白くないから認めたくありません』って、書いてあるぞ。顔に」

「書いてないー!!」

 そう言いながら、美優は顔を隠して部屋の隅に縮こまった。書いてないならそんなことをする必要ないのに、彼女の行動はいつもちぐはぐだ。そう言うところが分かりやすいと言っているのに、彼女は何も分かってない。

「うぅ・・・えぇぇーん・・・」

 そして、とうとう泣き出す始末。単純で簡単で、分かりやすくて顔に出やすい子供。で、バレバレなお隣さん。それを見ながら、早月は思った。

 絶対、遊ばれてるなー・・・。

 絶対、からかわれてる。あの二人に。

 面白くない。そう思いながら、美優の背中に声を掛ける。

「今日は御注文無しですか? お客さん」

 面白くない。別に、美優が遊ばれるのは構わないけど。

「・・・」

 そう思っていた早月の方に、美優が半べそかいたまま振り返る。頬が緩みそうなのを膨らませて堪えているらしい。よって、声が出てこない。

「・・・いらないの?」

 その言葉に、美優は激しく首を横に振った。

「麦茶? コーヒー? 抹茶? ほうじ茶?」

 ぶんぶんぶんぶん、美優はずーっと首を横に振っている。

「・・・水?」

「早月の意地悪ー!!」

 美優は、そう言ってジタバタし始めた。それを見て、しょうがないなぁ、と思う。

 こんな所を見て笑っている代わりに、彼女のお隣さん。お隣さんだから、自分も遊ばれているのだ。

 しょうがない。そう諦めるだけ笑わせて貰っているから、勘弁してやるか。

「いつもの?」

 そう聞いてやると、美優の顔がぱっと笑顔になる。そして、それに気付いたか慌てて背を向けた。

 そのまま、うんうんうんうん、何度も頷いている。

 美優が背を向けたから、早月もこっそり笑う。そして「はいはい」と言って立ち上がった。




 彼女は、お隣さん。それは、ただの偶然。たまたま隣に居た彼女。

 彼は、お隣さん。ちょっと近付けば、そこにいる必然。



 二人、やっぱり今日もお隣さん。

 理由? 特に、ありません。




これって以心伝心!? そう言えば、格好は良いけど。生憎、伝わる情報一定方向。

【目次】 









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