25、お隣さんと、お隣さん。

「ちょっと待ってて」
 そう言って、入り口付近のコピー機に早月は向かう。あたしは頷いて、早月がコピーを取ってる間、店内をうろつくことにした。
 そして、奥に行こうとして右手のコーナーに目が止まる。およ? 何だろう? これ。そう思って。
 あれ。あの、季節モノとかイベント物が置かれている一番目立つ棚。上から垂れているポスターを見上げて、ちょっとだけビックリした。そうか、全然意識してなかったけど、もうすぐホワイトデーなのね。と、気付く。白い箱に入ったクッキーやマシュマロ。飴もある。でも、ちょっとだけ品数が少ないような・・・。モノも小さいし。
 そんなこと考えていたら、バレンタインの時、尋ちゃんに「コンビニで買うつもり? ふざけるなよ?」と、言われたことを思い出す。ああ、そんなこともあったなぁ。と、懐かしくなった。大変だったなぁ。バレンタイン。結局、目に見えるプレゼントは出来なかったけれど。
 うーん? それにしても、バレンタインデーの時程世間は騒いでいる気がしない。どちらかと言えば、店だけが一生懸命になっている感じ。お返しだからか、買うのが男の人だからか。あとは、女であるあたしに余り関係のないイベントだからか。大変なのは、プレゼントを選んで渡す方だからね。
 てな訳で、早々興味を失った。さっさとそれから目を逸らして、あたしはお菓子売場や雑誌売場をウロウロすることにする。ホワイトデーのお菓子よりも、断然そっちを見ている方が楽しい。
 用事がないのに来るコンビニは、何気に好きだったりする。普段見ないマニキュアとか、お酒売場とかまでウロウロしながら早月の用事が済むのを待った。
 それにしてもコンビニ。本当に何でも揃うなぁ。と、改めて感心。文具コーナーを見ていて、ルーズリーフが切れかけているのを思い出した。でも、ちょっとお高めなので他の所で買うことにする。女子高生は何だかんだ言って、しっかり者。そりゃ限りあるお小遣いを、やりくりするわけですからねぇ。無駄遣いは出来ないわけですよ。
 そんなことを思いながら他の文房具も物色。うーん。そういや、赤ペンもインクが無くなりかけていたなぁ。またしても、思い出す。コンビニは偉大である。来ると、無くなり掛けている物を思い出せるらしい。
 やるなコンビニ。
 店に感心しながら早月の方を見ると、丁度終えたらしく教科書をコピーから取り出しているところだった。あたしは持っていた赤ペンを元に戻して、早月の所へ向かった。





  
「用事無いのにコンビニなんか行って楽しい?」
 家に向かって歩く途中、早月は街灯でコピーを確認しながら言う。あたしは「ちょっと持っててくれる?」と言われ、渡されたノートと教科書をブラブラさせながら早月を見上げた。
「まあまあ楽しい。ルーズリーフがないのを思い出したし」
「ルーズリーフ? ・・・ふーん」
 早月は不思議そうな顔をして、そう言う。
 その、早月の吐く息は白く染まった。あたしの息もそう。まるで綿のように色付き、空気に溶けて消えていく。
「ありがと」と言って早月が手を出すから、教科書とノートを渡す。その手を袖の中に仕舞って、あたしは言った。
「散歩とかさぁ。出掛けるのって楽しくない?」
「そうかー? まー・・・用事によるかな」
 早月はそう言って、今受け取った教科書を上げる。ひらひらと揺れる、挟まれたコピー用紙。あたしはそれを見て、素直に頷いた。
「・・・そうね」
 そうかもね。・・・それは余り楽しくない用事かも。確かに。
「でもお前、そんなに出掛けるの好きだっけ?」
 早月は前を向いて言う。車がすれ違うのには、ちょっと窮屈な程度の道幅。今は何も邪魔するモノがないから、あたし達は隣に並んで歩いた。お隣さん。早月がお隣さんだから、お隣さんって良いと思う。
「うん。結構好き。色んなモノを見たりするの、楽しくない?」
「ふーん? そうなんだ。いっつもうちに来てるから、そんな感じはしなかったけど」
「え? あー・・・」
 そういえばそうだ。そうだったねぇ。うん。
 と思ったあたしの耳に、前から車が走ってくる音。見上げていた視線を、早月と同じ方に向けた。光が近付いてくる。
 あたしは一度早月の後ろに隠れて車が通り過ぎるのを待ち、もう一度、隣に戻ってから頷いた。遠ざかっていく車の音。あたしは、それにかき消されそうな小さな声で呟く。
「・・・まぁー。うん。そっか。最近は、そんなに出掛けてないかも」
 うん。確かに、近頃出掛けてないや。確かに、早月に部屋ばっか。納得して、もう一回「うん」と頷く。
 でもこれは、早月に言ったつもりではない言葉。だから、聞こえて無くても良い言葉。そう思って、思わず口から出てしまった言葉。それなのに、こいつは。
「何だよ。それ」
 そう言って笑った。それを見て、「あっ、またーっ」と思う。
 早月はホントに、すぐ笑う。別に、可笑しな事を言ったわけでもないのに笑う。笑われると、あたし変なこと言ったかなぁって思っちゃうでしょーっ?
 だから、あたしの口からはこんな言葉しか出てこない。いつも。
「何だよーっ」
「いや別に」
「・・・」
 何さ。何さ何さ。別にって何さ。じゃあ笑うなよー。
 そう思って、いつも通り膨れたあたしに、早月は言った。
「じゃ、今度どっか出掛ける?」
「・・・え?」





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