21、対になっているモノ。

 げっそり。
「・・・」
「・・・」
 月曜日に教室へ入ったあたしを、親友達は無言で迎えた。あたしの目つきが悪かったか、クマが出来ていたか、体重は減ってないのに頬が痩けていたからだろう。しょうがないじゃないか。眠れなかったんだ。ここ二日。
「・・・はぁー・・・」
 机に俯せる。眠い。目が痛い。でも、寝れないのだ。いや、授業中なら寝れるかもしれない。と、不謹慎なことを考える十七歳の冬。
 それは、言うまでもないが土曜日から始まった。
 あの後、悶々として眠れなかった。そして日曜日は疲れてウダウダ。一人で部屋に閉じこもり。ベッドで横になっては疲れて起き上がる。起きていても疲れるので横になる。でも、寝れない。疲れる。起きる。疲れる。寝る。寝れない。の、繰り返し。あんなつまらない日曜日は初めてだ。一日無駄にした。死ぬ時に、きっと後悔するに違いない。
 つーわけで、昨日は一歩も外に出ていない。・・・つーわけで。
「・・・買えなかったか」
「・・・」
 康子ちゃんの声に、あたしは顔を九十度回転させて右目だけ腕の上から出す。
 そこに康子ちゃんの顔がアップであった。いつもだったら驚く場面なのだが、生憎その気力もない。人間寝不足だと、驚きとかそういう感覚が鈍くなるようだ。
「それにしても、随分頑張ったみたいだねぇー」
 その康子ちゃんの左側。あたしからして後ろの方から尋ちゃんの声。そっちを見ようと思ったが、眼球が痛いので止めといた。目の中の筋肉が筋肉痛みたい。
「・・・」
 何とでも言え。そういう気持ちで伏せ直す。もう、どうにでも言ってくれー。ハモりでも分割でもお好きにどうぞ。正に、まな板の上の鯉状態。そんな気分にもなってくる。
 それなのに。
「・・・よしよし」
「お疲れ様」
 多分康子ちゃんが頭を撫で、多分尋ちゃんが肩をさすった。うー。何で、こんな時に限ってそんなに優しいんだ。二人のせいでこんなに追い込まれているのに、その優しさに泣きそうになる。
「まあ、正直こんなになるとは思わなかったよ」
「うんうん。可哀想なことをした」
 あたしに言っているのか、二人で話しているのか、それは分からないけれどあたしは机に伏せたまま。
 そのあたしの腕に、固いモノが触れた。
「?」
 顔を上げると、小さな赤い箱。ハートのシールが貼ってある。・・・これは・・・あれだ。バレンタインチョコレート。くあーっ。何で、こんな所にーっ!? これを一体、あたしに、どうしろと!
 少々神経過敏になっていたあたしの目は、一瞬くわっ! と開いた。いてててて。目がいてえ。眼球を押さえて、目をマッサージする。幻覚か? 幻覚なのか? 筋肉痛になると幻覚が見えるもんなのか!? それにしても、何でチョコなんだ!? 幽霊でも何でも良いから別のモノにしてくれ頼む!
 そんなことを思っていたら、声が降ってきた。
「お疲れ様」
「ま、それでも食べて元気出しなよ」
「・・・?」
 え? 何それ。
 目が乾いて顔を顰める。そのあたしに二人は一瞬だけ笑顔を見せて、背を向けた。
「おおっと、先生来ちゃった」
「じゃねっ」
 ぼやけた視界の中、二人はチャイムの音に散っていった。





 その言葉を理解して、これが二人からあたしへのチョコだと分かるまで結構な時間を要した。時計を見る。一時間目が、十分くらい経過していた。
「・・・」
 大きな吐息が口から零れ落ちる。重い頭を手で支え、それを見た。こうしてみると、うん。赤いハートも、なかなか可愛い。白いリボンが、目に優しかった。
 ・・・まあー・・・そうだよな・・・。
 それから目を逸らして、今更当たり前なことを考える。
 好きとかお礼とか、まあそれ以外でも、プレゼントって良いもんだよなぁ。そこには必ず、気持ちがある。それを確かに伝える形が、結局プレゼントなのだ。そう思う。
 結局大切なのは、目に見えないモノの方なんだよね・・・。分かっているつもりで、あたし忘れていたけど。
 授業中。その小さな箱を机の隅に置いて、ずっと見ていた。そうやってあたしは見えないモノを、もしかしたら見ようとしていたのかもしれない。





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