18、暖房効き過ぎです。

 参ったなぁー。
 その日の放課後。あたしの足取りは重い。重すぎる。
 しかし、重いながらも目的地に向かっていた。目的地。・・・チョコ売場。
 ・・・何か、ああー・・・どうしよう・・・。
 何で、あたしはこんなに緊張しているのだ。納得いかねぇ。自分に納得いかねぇ。そう思いながら、駅ビルに入る。
 利き過ぎている暖房のせいで、顔が火照った。暖房のせいで。間違いなく悪いのは暖房。別に、何となく気まずいとか照れるとか恥ずかしいとか、そう言う訳じゃない。暖房のせいなんだってば。くそう、暖房め。もう、暑いったら・・・。
 ため息一つ付いて、マフラーを取った。その目の前、入ってすぐの特設会場はチョコだらけ。女の子だらけ。何だ? この濃いピンクの飾り達は。何なんですか? このハートだらけは。目が痛い。ああ、目に優しくない。
 などと思いながら入り口付近で突っ立っているのも邪魔なので、あたしは更に重くなった足を引きずりながら戦場に向かった。あーっ、もう。ホントに暑いったら。目が痛いったら。そう呟きながら。
 こんなにぶすっとした女の子は、取り敢えず見回した限りではいない。友達と来ている子達は笑いながら。一人きりと思われる人は、結構真剣な顔をしてチョコを見ている。義理と思われるチョコを大量に抱えている人も、何となく楽しそうな顔しちゃって。
 色々な形、色々な味、色々なラッピングのチョコ達。チョコだらけ。チョコ祭り。チョコカーニバル。・・・下らない。下らないぞ。あたし。そんなことを考えても、どうしても足取りは重いままでして。
「うー・・・」
 何ででしょうか? どうしてか、可愛いとも美味しそうとも思えない。風邪引いて、味覚がおかしくなってしまった時みたいな状態。
「・・・うーん・・・」
 これ程、チョコを憂鬱な気持ちで見たことはない。緊張して見たことはない。何だ。チョコ如きが! そう思う。あんたなんか一口で消滅なんだからね!
 ・・・そうは思っても、この緊張感はどんどん高まってくる。いかん。顔が強ばってきた。暑いし。暑い。暑すぎ!
 駄目だ。耐えられん!
 入ってから五分。あたしは駅ビルから飛び出した。








「愚か者」
「未熟者」
「・・・」
 そういうところはハモって一度で終わらせて貰えませんか? という時ばっかり、二人は分割でいらっしゃる。何なんだろうなぁー。人生って。親友って。
「何やってんのよ。あんたは」
「チョコ一つ買うのに戸惑いやがって」
「しかも何? 五分ももたなかったってどういうこと?」
「暑い? サウナか? 駅ビルは」
「・・・」
 だから・・・ハモって下さいよ。いつもみたいに。
 そう言い返すことも出来ず、あたしは、ひたすら耐える女になっていた。机に俯せて、両手で耳を塞ぐ。
「しょうがない。一緒に行くか、尋ちゃん」
「そうだね。もう駄目だ。一人では行かせられん」
「! やだ!! やだ!!」
 耳を塞いでもしっかり聞こえていたあたしは、叫んで二人の顔を見た。二人は「やっぱり聞こえてるんじゃないの。余計なことするんじゃないよ」みたいな顔でフン、と鼻を鳴らす。あの、堅気に戻って下さい。お願いします、姐さん方。
 しかし、その願いは聞き入れられなかった。
「何言ってんのよ。時間がないっつーの」
「明々後日だよ? 明々後日。ちなみに今日が金曜日だって分かってる? 土日さぼったら、どうしようもないじゃん。コンビニで買うつもり? ふざけんなよ?」
「・・・」
 こえぇーっ。何なんだよ、この二人。怖すぎるって。絶対、堅気じゃないって。
「でも・・・」
 でも、やだやだやだやだ。とってもじゃないけど、二人に引きずられて行く気にはなれない。あんな緊張してるとこ、見られたら恥ずかしくて仕方ない。
 あたしは必死で首を横に振った。ぶんぶんぶんぶん。もう、もげるんじゃないかってくらい必死になって振った。怖くても堅気じゃなくても、これだけはどうしても譲れない。昨日のことを思い出すだけで、ほっぺたが熱くなってきちゃうのに。
「・・・もうー・・・」
「しょうがないなぁ」
 その必死さが何かを訴えたか、珍しく二人はあっけなく折れた。あたしはホッとしたと言うよりは力尽きて、小さなため息をもらす。
 項垂れたあたしの耳に、二人の小さな声が迷い込むように入ってきた。
「・・・そこまで過敏なのに、どうして認めないかねぇ?」
「本当に何とも思ってないなら、全然迷う必要ないと思うんだけどねぇー・・・」
「え? 何?」
 何それ、どういう意味?
「何でもない」
 二人は同時にそう言って、別々の方向に顔を逸らした。





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