17、友人て、対等な関係じゃなかとですか?

「くっついてるね」
「うん。くっついてる」
「・・・」
 また、その話ですか。康子ちゃん。尋ちゃん。あたしは一人、相変わらず訳が分からないよ。
 翌日の昼休み。あたしの前。そして空になったお弁当を前に、二人は大きなため息を同時について顔を見合わせると言った。
「何かもう、本人達がどう言おうと、どうでも良くなってきたね、尋ちゃん」
「そうだね。康子ちゃん」
 そう言った二人はどうしてか、揃いも揃ってだらしない格好。机に頬杖をついている。右のほっぺただけが上がって変な顔になっているが、二人ともそんなことはお構いなし。おいおい。どうしたんだ一体。
「良いねぇ。美優は」
「良いねぇ」
「・・・何が?」
 やっとこっちに戻ってきた、と思って聞き返したが、その言葉は完全にカットされたようだ。二人は再び向き合い、二人で話している。
「これはもう、一度ご挨拶に伺わねばならんね。親友として」
「ご挨拶というか、お願いだね」
「ああ。そうか。お願いだね」
「頭を下げてでも受け入れて貰おう。無理矢理にでも押しつけてこないと」
「そうだね。他の子には無理だもんね」
「無理無理」
「あの・・・何の話?」
 控えめな口調で言ったあたしに、やっと反応した二人はこっちを向く。お帰り、親友共。
 と、声を掛ける暇もなく二人は言った。
「そんなことは、どうでも良いから」と、康子ちゃん。
「あんたは黙って」と、尋ちゃん。
「チョコを準備しなさい」
 最後は二人でゴールイン。淀みない。全く危なげない。結構なお手前で。
「・・・」
 うーむ。凄い。段々腕を上げる二人のハモり。どうしてそんなことが出来るんですか? 本当に他人ですか? 本当に高校に入る前の交流はなかったんですか? 本当に地球人ですか? 本当は台本があるんですか? テレパシー信じますか? っていうか。
「・・・何で、チョコ?」
 そこが一番の疑問である。そりゃチョコは好きだ。毎日でも食べたいくらい好きだ。食べろと言うなら、いくらでも食ってやるって位好きだ。でも。・・・準備って何だ? 何なんだ? どこにセットして発射すればいいのだ。誰を攻撃するというのだ。
「決まってんでしょ」
 と、康子ちゃん。はい、どうぞ。とでも言いたいのか、尋ちゃんの方に手を向ける。
「早月君に上げるチョコだよ。つーか、あんたが貰ってる場合じゃないでしょうが。全く」
 と、それを引き継いだ尋ちゃんは言った。康子ちゃんを見ると「さすが尋ちゃん。貴方は分かっている」とでも言いたいのか、難しい顔をして大きく頷いている。
「な、何で早月に・・・?」
 何で? 何で貰ってる場合じゃないの? あたし的には、あいつがくれるなら分かるよ。あたしが何故上げねばならぬのか、そっちの方が分からないよ? そんな気持ちでいっぱいである。疑問である。
 それを口答えと受け取ったか、二人は怖い顔をしてあたしの顔を覗き込んできた。
「何で?」
「何で? って言ったのか? 分かりませんか? 二月に入って結構経っているのに」
「・・・二月?」
 あの、怖いです。あたしは肩を竦めて、怯えながら言った。
「そう、二月」
「二月に入って、二週間経つと何かあったよねぇ?」
「・・・二週間・・・」
 七×二。・・・十四。二月、十四日。・・・二月十四日。と、いえば・・・。
 ぴーんっ。はい、分かりました。分かりましたが。
 おいおい、ちょっと待てぇい!!
「何でよ!? 何であたしが・・・」
 早月にバレンタインデーのチョコを上げねばならぬのですか!? 少々時代劇チックだが、そんな心境にもなってくる。どうして、そんなことを強要されるのだ。納得がいきませぬぞーっ!
 なんて思ったあたしに、二人は容赦ない。
「お黙り」
「口を慎みなさい。愚か者」
「う、うぐ・・・」
 な、何よぅ。何だよぅ? この感じ。
 滅多にないことだが、こんな時ばかり「空気」が伝わってしまったようだ。二人は「上様」とか「姫様」みたいな、俗に言う「上から見下ろす視線」で言う。
 てか、何で、こんな上下関係が出来上がっているのでありますかー? おかしいでござるー。ああ、ままならない世の中。よよよよよ。
 なんて、泣きたくもなってきたあたしに二人はやっぱり容赦ない。
「何も告白しろって言ってんじゃない」
「日頃のお礼を述べる、良い機会だと言っているのです」
 二人は難しそうな顔をして、大きく頷きながらそう言った。
「・・・お礼?」
 何で? 何で、あたしがあいつにお礼・・・。
「美優さん。貴方はいつも早月君の部屋に入り込んで好き勝手していますね?」
 困惑したあたしに、キラリと目を光らせて康子ちゃんが言う。
「え? う・・・は、はい・・・」
 何? いきなり。今度は被告人ですか? 何で、そういう設定になるんですか? もっと楽な設定無いですか? この緊張感、ちょっとイヤなんですけど・・・。
 が、二人は止まらず。
「そして早月君にミルクティーを作ってもらったり、チョコを貰ったり、アイスノンを持ってきて貰ったりしていますね?」
 尋ちゃんがクールに目を閉じて、モノを教えるような口調で言う。
「・・・う・・・」
 ぐさっ。そ、そう言われると・・・。
「してますね!?」
「はい! してます!」
 してますから二人で迫ってこないでーっ!
 夢中で叫んだあたしに、二人はふんぞり返って言う。
「だから、それの礼をしなさい」
「異議があれば申し立てなさい」
「・・・う・・・」
 返す言葉もない。納得はいかないが、二人を言い負かす言葉も見付からない。
「・・・うーっ」
 ぐやじいーっ。でも、言い返せないーっ。くそーっくそーっ。狡いよ、いつも。二人掛かりでさぁー。
 そうは思っても、結局いつも一人だからと言って勝てる気がしないと諦めるしかないあたしは、今日も然り。敗北宣言にも似た一言を口にする。
「・・・じゃあ・・・二人も誰かに上げる?」
 せめて、それなら気が楽になるかも。そう思って二人を見た。
「昨日、予定がないと言ったでしょうが」
「同じく」
「・・・」
 ああ、その話だったんだ。予定がない云々の話。今、やっと判明。一日経って、やっとである。
 話の流れをマラソンに例えてみると、多分あたしは第二集団辺りまで二人と離れている。いや、下手したら最後尾かもしれない。いつになったら追いつけるのやら。てか、いつか追いつけるのか? 無理なような気がする。
 もう、色んな意味でシュンとしたあたしの前で、康子ちゃんは言った。
「でも、ま。あたしもチョコくらい買ってみるかな」
「え?」
「うんうん。あたしも付き合ってやるよ」
 と、尋ちゃんも。
「ホント?」
 あれ? たまには優しい。そう思ったあたしの目の前で、二人は仲良く肩を叩き合った。
「尋ちゃん、どんなチョコが好き?」
「あたし、有名パティシエのチョコが食べてみたいなー。康子ちゃんは?」
「この間雑誌で見たんだけど、○○ホテルの生チョコがすっごい美味しいらしいのーっ」
「あ、それも良いねー」
「半分こにする?」
「賛成ー」
「・・・」
 おいおい。何だよ、二人だけで。そう言うオチかよ。何だよ、それ。
 呆れてそう思ったものの、寂しさは拭いきれない。
 ・・・何だよー。二人だけでーっ。仲間外れにすんなよーっ。
 怒るよりも泣きそうになって、そう抗議しようとした。ら。
 きーんこーんかーんこーん・・・。
「・・・」
 ああ、そう。チャイムまであたしを馬鹿にするの。そうとしか思えないタイミングで、昼休みは終わりを告げた。






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