二人で買った「アレ」の話。

「・・・早月、お願いがあるのですが」
 振り返った瞬間、美優は正座で見上げてそう言った。・・・何? またこの子、意味不明なことを始めたようですけど。
「・・・何?」
 そう思いながら、呆れ顔で早月は答える。また、どうせ下らないことなんだろうと思いながら。
「これっ。お願いっ」
 そう言って、美優は早月にピンク色の小さな瓶を差し出した。・・・マニキュアだ。この間、二人で遊びに行った時、美優が買ったモノ。
「・・・これが、何?」
 ちゃんと言わないと分からないでしょー? これだから子供は。そう思いながら聞き返した早月の足に美優はしがみつく。
「お願いー。これ、塗ってーっ」
「え?」
 は? そう呟いてから早月は首を横に振った。
「や、やだよ。何でそんなモノ・・・」
「だって右手に上手く塗れないんだもんー」
 手がプルプルしちゃって、上手く塗れないのーっ。必死にそう叫ぶ美優の言葉を聞いて、やっと納得。な、何だ。俺が塗る訳じゃないのか。と、早月は安心して大きなため息を付いた。
「しょうがないなぁー」
 そう呟くと、美優が足から離れて左手を見せる。
「ほらっ。左はね、出来たんだよ」
 見ると確かに綺麗に塗れてる。しかし、本来なら両手とも自分でやるモノではないのだろうか。良く分からないけど。
「お前、本当に不器用だなぁー」
 だからそう言いながら、早月は美優の前に座った。そして「そんなことないもん」と、面白くなさそうな顔をしている美優から瓶を受け取り、中から筆を出す。へー。こんな風になってんだ。と思いながら。
「・・・結構、匂いきついな」
 指を真っ直ぐ伸ばせよ。と言いながら早月は顔を顰めた。
「そうそう。除光液なんか、もっと凄いよー。やり直してる間に頭クラクラしてきちゃって、もー大変だったんだから」
「・・・」
 危ない。こいつ本当に危ない。
 なので「練習しなさい」とも言えず、ただ「動くな」と教育的指導を交えながら、早月はマニキュアを塗ってやった。そして、滞り無く完了。
「ありがとうー。早月、うまいねぇー!」
 美優はそれを見て満面の笑み。爪を乾かそうとしているのか、ヒラヒラと手を振った。
 それを見た早月の「アッチコッチ触ったり、ぶつけたりして台無しにするなよ」という教育的指導は続き、美優はテレビを見ながら早月の椅子に右手を暫し拘束されることになった。
「お茶はー・・・?」
 と、泣きそうな情けない顔で早月を見上げても。
「そういうモノ持ってくると、絶対右手使うから駄目。もうちょっと待ってなさい」
 と、にべもなく却下。その結果、美優の右手の爪に塗ったマニキュアは綺麗綺麗に乾きましたとさ。


 そして翌日。それを聞いた康子ちゃんと尋ちゃんが、遠い目をして頭を抱えたことは言うまでもない。



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