15、こういうのを「墓穴を掘る」って言うんです。

「どれどれどれ?」
 二人は、開きっぱなしになっているドアから中を覗き込む。
 その後ろで、あたしは同じ様だけど違う廊下を見て、同じ様だけど見覚えのない生徒達の視線にオロオロとしていた。じょじょじょ、冗談じゃないよ。こんな所で早月に会いたくないよ。逃げよう! そうだ、逃げろ、あたし! 逃げ・・・っ。
 と、思ったあたしの進行方向は、あっけなく塞がれる。あ、何? 何よ。どいてよ。逃げれないじゃないのよ。そう思って相手を見上げ、あたしはピキッと固まった。
「? 何やってんの? お前」
 道を塞いだ男が言った。それは他でもない早月である。早月だったのである。何だ!? 何なんだ、この展開は!?
「い・・・っ」
 ぎゃー! 出たー!!
 ・・・と、叫びたかった。肝試し並に、叫びたかった。でも叫んではいけない。叫んだら、ただでさえ注目されているのに、もっと注目されてしまうーっ。
 あたしは慌てて口を塞ぐ。そのあたしを、不思議そうな顔をして早月は見下ろした。いやっ。いやーっ! 何で、こんなにバッドタイミング!? 神様! 仏様! 二人のテレパシーといい、この世は一体どーなってるの!!?
「・・・彼?」
「そう」
「・・・格好いいじゃん」
「はぁい。早月君」
 後ろから、苛つくほど暢気な二人の声が聞こえてくる。はぁい、じゃねっつーのっ。康子ちゃんてばーっ!
 でも、それを怒るのは後だ。あたしはもう、ただただこれ以上被害を拡大したくなくて早月のブレザーを掴み、それをゆっさゆっさ揺さぶった。二人に変なことを言われるよりは、自分がピエロになった方がましである。あたしの背後に気を取られていた早月は、その行動にあたしを見る。
「その・・・あの・・・」
「は?」
 早月は不思議そうな顔のまま、あたしにされるがまま突っ立っている。
 何だ、その無防備な表情は。もう見てられない。あたしは俯いて小さな声で言った。
「き、教科書貸して・・・みない?」
 言った瞬間に後悔の嵐。あたしの大馬鹿野郎。他にも色々あるじゃん。シャーペンの芯とか、赤ペンとか、ルーズリーフとか、何でも良いじゃんか。何で教科書だよ、おい。早月の教科書なんか、借りてどうするんだよ。何の役にも立つ訳無いのに。うっかりな自分にショック大!
「・・・教科書?」
 聞き返すな早月。無用の長物と言うことが、お前には分かるだろうがーっ!! あーっ!! もうイヤー!!! 誰か、どうにかしてくれーっっ!!
 心の中でそう叫んだ瞬間、後ろの二人が大きな声で笑い出した。






「はははは・・・あははははは!」
「あははははははー!! お、お腹痛いー」
「あたっ。あたしもーっ」
「苦しいーっ」
「・・・」
 黙れ、お前ら。そういう視線で、そういうテレパシーをバシバシ送っているのに関わらず、二人は腹を抱えて笑っている。やっぱり、あたしからのテレパシーは通じない模様。
 二組の教室の中。いつもの三角形。目の前には、お弁当。でも、誰も手を着けていない。食いしん坊の尋ちゃんすら。
 何故ならその内窒息するんではないかと言うほど、息を切らせて笑いまくっているから。だから、黙れってのに!
「よりっ。よりによってっ」
「早月君にっ、きょっ教科書借りようとするなんて」
 あはははははー。きゃはははははーっ。腹立たしさが倍増するくらい、無邪気で遠慮のない笑い声。悔しいーっ。窒息してしまえ! 親友共!
「・・・ううっ」
 しかし、これは自分の撒いた種である。言い訳出来ない。言えば言っただけ、空しくなるだろう。
 二人とは別の意味で目の前にあるお弁当に手を着ける気にもならず、あたしは机に突っ伏した。





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