13、二年間入り浸り生活終了?

「何だ、そんなこ・・・・・・は?」
 あたしは「ふんっ」と格好良く顔を逸らした・・・かった。
 その、つもりだった。でも、予想もしていなかったその言葉に、思わずキョトン。
 ・・・だって。
「いま・・・? ・・・え?」
 何つったの? ・・・い・・・今更?
 ぽかん。あたしは口をパカッと開けて停止した。しゅーん。と、怒りも苛立ちも見事に吹っ飛んだ。驚きに、こんな作用があるとは驚きだ。今度、誰かに怒られた時は試してみようか。うひひ。
 ・・・じゃなくて。
 あたしは慌てて口を噤んで考える。ついでに瞬きもしてから、考える。
 違うだろ。あたし。今は、そんなことを考えてる場合じゃなくて・・・。え、えーと? ・・・えと「今更?」って、何? それが答ってこと?
「・・・????」
 予想外の出来事に、あたしは眉間に皺を寄せて早月の部屋中を睨んだ。その顔を見て怪訝そうな顔をしている早月のことは、ハッキリ言って無視である。
「・・・えーっとぉー・・・」
 最終的に、あたしは早月と同じ様に、ちょっと困ったような顔をして宙を睨んだ。そして天井を見ながら、頑張って考えてみる。「今更?」・・・って、その意味。
 今更? ・・・うん。
 ごもっとも。そう思って、あたしは頷いた。
 まあ・・・うん。それは否定出来ない。認めよう。それは潔く。だって、そうですよ。今更ですよ。少なくとも高校に入って二年間近くは、ほぼ毎日煩くしてたんだもんね。好き勝手やってたんだもんね。今更・・・だよね。今になって・・・ねぇ? 考えてみれば・・・ねぇ?
 うん、その通り。その通りだぞ。早月。お前は正しい。結局、その結論に達した。
 そして、賢いぞ。あたし。
 抜け目無く、やっとその言葉を理解したあたしは自分を誉めた。「うむ」と小さく頷く。それを見て不思議そうな顔をした早月のことは、またしても無視である。今は早月に構っている暇はない。
 だって、あたしは疑問だった。そんなこと、何故聞く? そんな疑問。早月には分かってるくせに。今更な事なんか、分かってるくせに。って。
 不思議だ。早月が言うから不思議だ。「今更?」なんて。そうそう、今更だよ。そうだよ。早月には、分かってるはずでしょ? それなのに、何いっ・・・うん?
 ・・・あれ?
「さ、早月?」
 ピン。と、きた時には早月を呼んでいた。
「ん?」
 早月は不思議そうな顔をして、あたしを見る。その表情に、あたしの「ピン」はどんどん確信に近い物に・・・なっていきそうで、ちょっと待て! あたし!
「あ、あの・・・」
 早月? ・・・あわわわ。ねぇねぇ。早月。あたし今、とんでも無いこと思ったんだけど・・・。
「?」
 早月は、相変わらず不思議そうにあたしを見ている。
 あたしはその表情に期待してしまいそうで、慌てて俯いて言った。
「あの・・・じゃあ、その・・・」
 いや・・・まさか。そう思いながら、あたしの想像はどんどん加速していく。まだ、何の答えも貰ってないのに。この質問を、口にすらしていないのに。
 でも、期待しちゃう。だって、期待しちゃう。
「早月は、さぁ。・・・も、もしかして」
 もしかして、もしかしてー・・・っ。
 そう思いながら、首を横に振ってそれを振り切る。駄目だ。期待し過ぎちゃ駄目だって。それを見て怪訝そうな顔をしている早月は・・・。(以下省略)
 ちょっと待て。落ち着け。落ち着くんだ。あたし。落ち着いて。落ち着いて・・・き、聞いてみよう・・・。
「・・・えと・・・い、今までみたいに・・・あの・・・その・・・」
 お伺いを立てるように肩を竦めて、あたしは言った。
「今、までみたいにう、煩くしてても・・・良いの?」
 言って、思った。そんなわけないかぁーって。せっかく、こんな・・・静かになるってチャンスに・・・。
 ・・・って、思った、けど。でも・・・返事を貰うまでは分からない。全部、早月が答えてから。早月は、なんて答えるだろう? この返事に全てが掛かっている。今までの時間が続けられるか、否か。
 そう思うと、ちょっと緊張した。一度失った気ではいたとはいえ、その時間が許されるなら、ずっとでも続けていきたいあたしは、そりゃ期待もしてしまう。そうさ、そりゃ期待するさ! ・・・うう、ドキドキハラハラ。早月を見る目も、ちょっと弱気になるってもんで。
 そんなあたしを見て、早月はまた困ったように視線を逸らした。
「・・・別に・・・今まで程度だったら構わないけど・・・」
「!?」
 今、何つった!!?
 その言葉に弱気な視線は見事ぶっ飛び、あたしはこれでもかと言うほど目を丸くした。あと一ミリ大きく開いたら、どっかの映画みたいに目ン玉が飛び出しただろう。つまり、それ程驚いたってことだ。要は。
 おおおおい、おいっ早月!? 何つったー!?
 そして、あたしは耳を疑った。疑いたくなかったけど、疑った。
 構わない? 構わないって言ったの? 今! 言ったよね!? 言ったでしょ!? ちょちょちょ、ちょっと待ってっ? それは、お許しの言葉に聞こえるけど? いや、間違いなくお許しの言葉だよねっ? ね? ね? ね? そう言うことだよねっ? ま、まま、マジでっ? もう「やっぱ止めた」とか「嘘だよーん」とかは受け付けないよ? 良いの? ホントにホントにホントにホント? ねぇねぇ、早月ってば。ホントにホントに?
「ホ・・・ホントに・・・良いの?」
 あたしのこの騒がしい胸の内は、きっと神様にだって想像出来ないだろう。
 と言うくらい、小さな声であたしは言った。そして迂闊にも、それは震えてたりして。だって緊張したんだもん!
 その珍しくか弱い問いかけに、また一瞬こっちを見て困ったような顔を逸らしてから。
「まあ・・・うん」
 こっくん。と、早月は確かに頷く。それはあたしが待ち望んでいた、間違いなくお許しの返事。
 ・・・だよね!?
「い・・・良いんだ?」
「・・・うん」
 思わず呟いたその言葉に、早月はもう一度頷いてくれる。それは疑いようもない、確かな肯定。
 つまり、あたしは早月の部屋で(早月の勉強中に)煩くしていても良い権利を得たってこと。二年間の無免許無資格無許可生活(本人全く自覚なし)にピリオドを打ったと言っても過言ではないと言うことだ! や、やったっ。うわぁーい。万歳っ!
 よ、良かったーっ。やったぁ。ホッとした・・・。
 急激に力が抜けていく。肩から。それから、ほっぺたからも。
 や・・・やべっ。嬉しいかも。にやけちゃうかもーっ。
 そう思って、あたしは慌ててミルクティーを飲んで顔を隠した。ふわふわ、あまあま。あ、美味しい。まずい。やっぱり、にやけちゃう。
「え・・・えへへへへー・・・」
 幸せだらけだ。この部屋は。我慢が出来なくて、結局笑ってしまったあたし。
「・・・変なヤツ」
 そんなあたしを見て、早月もため息混じりに笑った。





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