32、お隣さんの、お食事。

「あ・・・」
 手は繋ぎつつ、しかしあまりの混雑に最早、早月の腕にしがみついていたといっても過言ではない美優が、そう呟いた。
「? 何?」
 早月は足を止め、美優が見ている方を見た。本屋。雑貨屋。その隣には、大きな電気店があった。それを見て、美優を見る。彼女の興味がどれに向いているのか、ここからじゃ分からない。
 美優は背伸びをしてその三店のどれかを見ていたが、やがて早月を見上げて言った。
「・・・あそこ、見ても良い?」
 と、指を差されても。・・・多分、本屋か雑貨屋だろうと思うがどちらか分からない。
「どこ?」
 と聞くと、美優は機嫌を窺うように顎を引いて呟く。
「雑貨屋さん」
「いいよ」
 別に、行く当てもないのだから返って有り難い。
 即答でそう言うと、美優は「わーい」と言いつつ、僅かに早月の腕にしがみつく腕に力を入れた。

「この前ねっ」
 あそこ、あそこ。あそこが見たい。店の中に入り、美優は早月の腕を引っ張るように歩きながら話し始めた。
「康子ちゃんがねっ。あ、三人で遊びに行ったんだけどね。尋ちゃんと康子ちゃんとあたし」
「うん」
 話が前後しても何のその。
 というか、いつもの三人だろ? と思いながら早月は頷いた。
「凄い綺麗にマニキュア塗っててね。尋ちゃんとね。今度あたし達も塗ろうって言ってたの」
「・・・へぇー」
 そして着いたは、マニキュアコーナー。美優は名残惜しそうに早月から離れて、それを覗き込む。
「わーい。どれにしようかなーっ」
 そう言った美優の後ろ。凄い沢山、色があるもんだなぁー。と、早月。
 そう思った時点で、今後の美優の行動は分かっていたわけで。
「うーーーん・・・」
 と、やがて美優は頭を抱えて唸った。・・・やっぱりね。



 ようやく薄いピンク色のマニキュアを購入した頃は、店に入って三十分経過。一本のマニキュア選ぶのに三十分。本屋かCDとか、せめて早月も興味のある物だったらまだしも、マニキュア選ぶ美優を待って三十分。
 店から出た時、早月はげっそりと肩を落として言った。
「あのさぁー」
「何? 何?」
 一方美優は、ご満悦。今にもぴょんぴょん跳ぶんではないかと思うほどに元気に答えた。なぜ、お前はそんなに元気なんだ。そんな嫌味(?)を言う気力もなく。
「俺、腹減ったんだけど」
 と、早月は呟くように言った。既に一時過ぎてる。歩き回って美優待ちして、そりゃ腹も減りますがな。
「飯食おうよ。買い物は、また後で」
 そう言うと美優は「ご飯ご飯」と、嬉しそうにぴょんぴょん跳んだ。・・・本当に子供は元気ですなぁ・・・。

 そしてレストラン街に移動し、地図を見る早月。一方美優は地図に興味はないのか、キョロキョロと店の看板ばかり見ている。落ち着きがない。迷子の子供みたいだ。
 ピークは過ぎたらしいが、未だ混み合っているレストラン街。高校生じゃないみたいな二人。
「ねー。ねー。早月ー」
 やがて美優は、落ち着かない様子で早月の服を引っ張った。
「何?」
「お腹空いた・・・」
 さっきまでは元気だったくせに、早月が空腹を訴えたのが移ったらしい。美優は早月を見上げて力のない声でそう言う。愚図り出す一歩手前の幼児にしか見えない。
「何食べたいの?」
 決めて貰えると有り難いと思いつつ、自分の見ていた地図を見せて上げようとしても、美優は早月しか見ていない。そして、泣きそうな顔でぽつりと呟く。
「何か食べたい・・・」
「・・・」
 聞くだけ無駄だった。そう思いながら早月は黙って歩き出す。地図と美優と格闘していても、自分のお腹が減るだけだ。半ば本能的にそう思ったからの行動。
 そして近いのが一番とばかりに、最寄りのレストランの看板を見上げた。「オムレツ専門店」と書いてある。良くは知らないけど、多分こういうの好きだろうなぁ。と、思いながら隣を見ると、さっきとは違ってキラキラとした目で看板を見上げている美優。その顔を見ていると目の前にあるオムレツのメニューがお子様ランチに見えてきたりして。
 まあ、聞くまでもない。と思い、早月は黙ってその中に入った。

「美味しいねぇー」
 ほかほかのオムライスを一口。食べて、美優は笑った。本当に分かり易い。
 それを見ていると、余り素直に笑顔を見せるのが照れ臭いという早月の深層心理を全く理解して・・・いる筈がない。そして時々、代わりに笑って貰ったり、泣いて貰ったりしている気になっていることも。
「・・・うん」
 ただ、彼女のそういう表情を見ているのは悪くないっていうのが辛うじて分かる、本当のこと。確かに美味しいし。と、空腹と笑顔も手伝って、素直にそう思いながら早月は頷いた。何の不満もない。こんな食事って良いと思う。それくらい、嬉しそうな美優の笑顔。
 ただ一つだけ、気になることがあるんだけどなぁ。と思いながら早月は、それには触れずに旨い食事を平らげた。 



 その後も散歩のようにフラフラ、モールを歩き回った二人。
 必要な物も欲しい物も二人とも何も無くて。まぁ、お金もなくて。それなのに、二人共黙ることも退屈することも、ちょっともなくて。
 本屋に行けば早月の開いた本の横で美優は頭を抱え、美優の見ていた雑誌の隣で早月が一瞥して目を逸らすと面白くなさそうな顔を向けた。クイズの本を開いて早月に問題を出してみる物の、美優が面白いと思うレベルは早月には簡単すぎるらしくポンポン答えるものだから美優は面白くなくて売り物の本をしわくちゃにしそうになるし。
 百円ショップの工具の前で、あーでもないこーでもないと、その使い方で揉めて。薬局でお互い使っているシャンプーの話になったり。ファーストフードの新商品が美味しそうだの、新社会人向けのスーツの売場の前でネクタイが結べるかだの、どうだの。
 普段通り、どうでも良い話で時間だけが過ぎ去っていく。気が付けば六時過ぎ。夕食は、それぞれに家で取ることにしていたので、暗くなったしそろそろ帰るか。と相成りました。





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