4、お隣さん、優位に立つ。

 その言葉で、ぴんときたらしい。
「は、はーん」
 早月はニヤリと笑うと、あたしの手を取って外した。そしてネクタイを整える。
 そのまま多分、わざとあたしの方を見ないで明後日の方を見ながら、もう一言。「なーる程ね」
「な・・・?」
 なななな、なんだ、その余裕の態度は! いきなり何なのよっ!? ちょっと待てー!!
「なる・・・っ」
「あのなぁ」
 しかし叫ばせても貰えなかった。勝ち誇った顔をして、早月はあたしに向き直る。
「俺は嘘を付いた覚えはないぞ」
「う・・・嘘とか、ホントとか・・・っ」
 その、思わずどもったあたしの頭をぽんぽんと叩いて「はいはい」と言うと、早月は腕時計を見る。だからっ。何だ!? その余裕の態度は! って言ってるんですよ! さっきから!! ちっくしょうー!!
 しかし、この叫びは早月に届かなかったようだ。
「じゃ、俺戻るから。授業始まるし」
 そう言って、あっさりと手を上げる。
 無視? ・・・無視である。これは、所謂無視である。完全に、無視である。
「はなっ話、終わってないでしょー!?」
 一人だけスッキリするなんて非道い! その気持ちを込めて、あたしは叫んだ。
 そんな一言を叫んだだけで息切れしたあたしに、早月は「もう・・・」とため息を付いてから答える。
「高橋康子さんは、俺の友達の友達。帰りに何度か一緒になりました。話をしていたら、お前と同じクラスだと言うことが判明。『家近いの?』って聞かれて『近いって言うか隣』と答えた。『じゃあ、お互いの家に上がったこともあったりする?』って聞かれて、この時は控えめに『ある』とだけ答えた。『最近来たのはいつ?』って突っ込まれたから、もうしょうがなく『あいつは毎日来てる』と答えました。以上。これで満足か?」
「・・・」
 ・・・はい?
 あまりにも早い説明に、あたしの頭は真っ白になった。
「お前さぁ。からかわれたんだよ」
「からから・・・?」
 目を点にしたあたしを見て早月は笑う。そして「ばーか」と言って、あたしの眉間を人差し指でつんとつついた。体がぐらつく。この、性悪!
「まっ・・・待てー!!」
 スタスタとドアに向かって歩き出した早月の背中に叫んだ。ヤツは止まり、半分だけ振り返る。
「何?」
「な・・・? う・・・」
「何?」そう言われて、返す言葉がない女子高生。情けない。空しいぞ。こりゃ。
 あまりに情けないので、取り敢えず相手にダメージは全くないと思われる言葉でも叫んでみた。
「あのっ。ねぇ! み・・・みんな(正確には、尋ちゃん一人)ビックリしてたんだからね!! もぉー!! どうしてくれんのよー!!??」
 しかし、それはあまりにも迂闊な行動だったようだ。
「・・・あのなぁ。そんなに困るんなら」
 大きなため息を付いて、早月は言う。
「来なきゃ良いのに」
 あ、そういうこと言う?
 がびーん。自分の言葉のせいで傷ついた。
 言い捨ててドアに消えていく早月の後ろ姿に、今度は掛ける言葉も無く、あたしはその場に立ちつくす。こんな時に限って強い風が吹きまくり。びょおおおぉぉぉー・・・なんて、風の音がうるせーのなんの。
 ・・・超寒かった。





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