2、お隣さん、引きつる。

 うちら、そろって高校二年生。十七歳。同じ学校に通ってる。
 理系である早月と、文系・・・というか、数学理科が不得意だから文系となってしまったあたしは、クラスが当然というかなんというか、違う。
 ・・・クラスが違うと言うよりも、校舎も別である。中身も外見も違う。同じ校名であろうと、もう別の学校と言っても良いくらい違うのである。
 扱いも違うなら、習っている勉強のレベルも違う。ついでに学費も別レベル・・・らしいが、それは親の管轄なのでこの際目をつぶろう。親の心子知らず、とはよく言ったモノである。
 えー。・・・で、「それくらい言わなくても分かるでしょ!?」と叫んで、言うことを放棄したい位、言いたくないが・・・悔しいことに早月の方がレベルが高い。その差、どれくらいかというと、未だに悔しがっている自分が情けなくなるほど、ヤツのレベルは高い。
 あたしは馬鹿じゃないぞ。多分、馬鹿じゃない。恐らく馬鹿じゃない。馬鹿じゃなーい!! けど、既に大学生達と同じ授業を受けている理系クラスに、ほのぼのがウリの文系がどうやったらついていけるというのだ。それ以前に勉強嫌いなあたしは、悔しがっているだけで何もしていないのが全ての敗因だと分かっていつつ、見て見ない振りをしている。
 てなわけで、家が隣同士で同じ(とりあえず私立)高校に通っているにもかかわらず、学校では殆ど顔を合わさない。登校時間も早月の方が早いので、まあ、まず会わないと言って正しいだろう。
 当然教科書の貸し借り、廊下でのすれ違い、などということもない。友人だって、殆どかぶらない。なので、未だにあたし達が隣同士であることを知っている人間は、学校内でもそう居ないと思われる。


 ・・・が、今はそんなことどうでも良かった。何で「ヤツ」は、わざわざ文系校舎になんぞに、やってきたのだろう?

 
 文系校舎の屋上に出た。一月なので、ここでお昼を食べている気違いはいないようである。無人の屋上は無駄に広い。そして、さむっ。
 そう思っていたら、一歩前にいた早月が振り返って言った。
「俺が、何を言いたいか分かるな? この野郎」
 怒りか疲れか、早月の頬はさっきからひくひくと痙攣している。しかしそうしていると痛いのか、早月は何度も顔をしかめた。ふふふん、何だかいい気味だ。
「その前に、その怪我はなんなわけ? ベッドから落ちたの? それとも階段から落ちたの? 卵焼きひっくり返そうとしてフライパンをぶつけたの? まあ、あり得ないと思うけど昨日おばさんに殴られたとか? はははは。いやいや、まさか。最後のは無いよね。じゃあ、前者三つ+その他を含め四択だ。さあ、選べ」
「分かっているなら聞くな。時間の無駄だ」
「・・・」
 出来れば「三か・・・」と呟きたかったが、確かに時間の無駄なので止めておく。ヤツが痛そうな顔をしていて、ちょっと気分が晴れたのかもしれない。我ながら単純だ。おばさん、ありがとう。
「・・・で? 何? 何の用?」
 しょうがない。話を聞いてやるわよ的な格好で、あたしは言った。せめてもの戦闘態勢である。腕を組んで、だらしなく片足に体重を掛けると早月の顔を見上げた。
「・・・お前・・・」
 対して早月は、引きつりながら笑って言う。そして自分の顔を指さした。
「何の用? って言ったのか? 言わなきゃ分からないのか? お前は」
「分からない。何?」
 そう言って見た早月の顔は、もう頬が引きつっていると言うよりも痙攣している。
「・・・じゃあ、聞いてやるからハッキリ答ろや。お前、昨日俺に俺の枕を投げつけて馬鹿野郎だの何だの罵ったが、あれは一体なんだ? あれが他人の部屋に入って、まず言うべき言葉なのか?」
「馬鹿野郎に馬鹿野郎と言って何が悪い」
「俺の質問に答えろ」
「家に入った時は、ちゃんとおばさんに『お邪魔します』って言ったよ。で、出る時は『お邪魔しました』も忘れなかった。どうだ。偉いだろう」
 ふんっ。と胸を張ったあたしに、げんなりとした表情で早月は言う。
「分かった。人に馬鹿野郎と叫んだ馬鹿野郎に、答えやすい質問をしてやる。何で俺が馬鹿野郎なのか、その理由を答えろ」
「・・・」
 けっ。と呟いて、あたしは顔を逸らした。何だよ。お前は、気付いてないのか。そう思って。
「・・・何だよ?」
 ぷくっと頬を膨らませたあたしを見て、早月は不思議そうな顔をする。そんな顔をされると怒ってるこっちが悪者みたいだから、さっさとさっきみたいに引きつれ! そう思いながら、あたしは言った。
「早月。この間、女の子振ったでしょ」





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