お隣さんの、お正月。

「早月。早月っ。明けましておめでとっ。ね、ね、ね。聞いて聞いてっ。お年玉貰ったー。いっぱい貰ったっ。早月はっ? いっぱい貰った?」
 正月早々、机に向かっていた早月。振り返った瞬間に、正月も夏休みも関係ないお隣さんの声が聞こえてきた。そしてその本体が、椅子に座ったままの自分の膝をゆっさゆっさゆする。どこかの子供と言うよりは、散歩をせがむペットにしか見えない美優。
「お年玉?」
 新年の挨拶をする暇もない。そう思いながら、言われて気付く。ああ。そういえば幾つか貰ったな。と。
 そして思い出す。机の引き出しに、貰った状態のまま仕舞ってある「お年玉」。感謝の気持ちいっぱいで受け取ったものの、中身は改めて確認していない。挨拶や手伝いで、そんなことに構っている暇もなかった。齢十七歳にして、本当に爺さんみたいな・・・基、お金に対して余り執着心のない早月。
 対して。そのお隣さんな、同い年の美優。こちらは完全に戦闘態勢。お年玉に浮かれて浮かれて浮かれまくっている。
「こんな大きな収入、滅多にないよねぇー。どうしようかなぁー。ずっと迷ってるんだー。服欲しいんだけど、ブーツも捨てがたいしー・・・バッグも欲しいしー・・・」
 人に質問をぶつけておいて、最早早月の答を聞く気もないようだ。美優は頭を抱えてお年玉の使い道を悩んでいる。
「あんまり無駄遣いすんなよー?」
 指折り欲しい物と金額を両手で計算しながら宙を睨んでいる美優に、一体何をしに来たんだろう。と思いながら、早月は呆れた顔で呟いた。その言葉に、美優は両手をグーにして顔を顰めると「・・・やっぱり、三つは駄目かな」と、泣きそうな顔で呟く。
「・・・知らないけど」
 お年玉の使い方まで指導出来ない。そう思い、早月は早々戦線離脱。
 しかし、お隣さんは許さなかった。しかも、この時の「お隣さん」は、いつものお隣さんのことではなかった。
「早月は? 早月は何か買うの? お年玉、どうするの?」
「え? 決めてないよ。特に欲しい物もないし・・・」
「欲しい物、無いのー? 何で?」
「何でって言われても・・・」
 そう聞かれて考えてみる。思い付いたのは、ああ、じゃああのCD買おうかなってこと位。
 そう美優に伝えると「それ貸してーーっ」と膝を揺すってから肩を落とした。
 そして呟く。意味不明な以下の言葉。
「ホントだった・・・」
「ホントだった? 何が?」
「お母さんが『早月君を見習いなさい。きっと、そんなに無駄遣いしたりしないわよ』って言うから。確かめに来たの」
「・・・は?」
 何だって?
 ・・・と、言いかけた言葉は、不発。あまりの事実に言葉も出てこない早月。そして「ホントだった。ホントに早月ってば無駄遣いしないでやんのー」と、半泣きでいじけている美優を見ながら、こっちこそ泣きそうなんですけど。と肩を落とした。湧き上がるのは、完全に子育てを放棄したと思われる彼女の親に、のし付けて返却したい気持ち。どうしてこっちに送ってくるのだ。自分の子供は、自分で躾けて下さいよ。と・・・心底思ったけど。
 でも、まぁ、まだ言うことを聞いて悩んでいる内は良いか。と、正月早々心の広さを見せつけたりして。
「ねぇ。やっぱあたし、無駄遣いかなぁ。欲しい物いっぱいあるけど、全部は買ったら駄目かなぁー」
 なんて大人しく相談してくる美優に、ハッキリ言って降参。当然、無下にも出来なくて。
「ちゃんと考えて、本当に欲しい物を買いな」
 と言うのが精一杯。「そうだよねー・・・うーん・・・・」なんて、素直に悩む美優が、可愛くないわけでもなかったから。
 だから、まあいいっか。と、思った。

 親はなくとも、子は育つ。
 特に、出来たお隣さんが居れば言うこと無し。・・・かもしれない。


 ちなみに、この一ヶ月弱後、いきなり飛び込んできた美優に意味不明な怒りをぶつけられ、その後実母に殴られることなどは知る由もない早月なのであった。




Wandering Networkに投票  NEWVELに投票

目次 
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。