お隣さんの表情は、口ほどに物を言う。

「今日、夜、親戚が来るから」
 早月からそうメールが来たのは、お昼頃の話。
 無駄なことは一切・・・・というよりも必要なことまで削られているが、これはつまり「今日は来ちゃ駄目だよ」っていうメール。そう書いてないけど、そういうメール。あたしにとっちゃ、不幸の手紙みたいな物である。
「・・・」
 勿論行く気満々だったあたしは、今卵焼きを食べたばかりで何も刺さってないフォークを再びくわえて俯き、携帯片手に何も無い口の中をモゴモゴした。だって、そうして誤魔化してないと康子ちゃんと尋ちゃんに何か言われそうで・・・なんて意識していたわけではないけれど急に面白くなさそうな顔になってしまいそうだったから、それを隠したかった、から。二人がこっちに気付かなければ、それで誤魔化せると思ってた、から。
 しかし。
「早月君だ?」
 と、間髪入れずに康子ちゃんの声が聞こえた。でも、声の方向を察するにあたしに言っている訳ではないらしい。
「今日は遊べないよー。だって?」
 尋ちゃんの声も聞こえた。そう問いかけるような言葉なのに、やっぱり声はこっちを向いてない。
 もごもごもご。あたしは空気を噛み潰しながら、まだメールを読んでいる振りをして無言。こんな面白くないこと、言いたくないもん。口に出すのも、あー嫌だ。と、思って。
 なのに。
「そっかー」
「可哀想にねぇー」
 康子ちゃんが「そう落ち込まないの」とあたしを宥め、尋ちゃんの手があたしを撫で撫でする。何も言ってないのにっ。そう思って、あたは俯きながらちょっと「むむむ」。
 しかし、その攻撃(?)は止まるところ知らず。むしろ勢いを増していく。
「一日くらい、我慢しなさいな。あんただって、あたし達と遊びに行く時は自分の都合で会わないわけでしょ?」
「そうそう。寂しかったらメールしておいで。暇だったら相手して上げるから」
「面白いテレビでも見て」
「美味しい物でも食べて」
「さっさと寝ちゃいなよ」
 お見事。康子ちゃん、尋ちゃん、康子ちゃん、尋ちゃん、二人。のコンビネーションで、あたしを慰めているのか窘めているのか。
 とにかく何が面白くないって、あたしは何も言ってないのに二人がそう決めつけているというのが面白くない。加えてバッチリ当たっているだけに、面白くない度は倍増である。
「・・・何にも言ってないじゃん」
 とうとう我慢できなくなって、くわえていたフォークを取ってボソリと呟いた。色々と面白くなくて、出てきたのはそれだけ。しかし、そんな言葉は受け入れても貰えなかったようである。
「しょうがない。今日は暇だから、お茶でもしに行く?」
「だね。久しぶりにプリクラも撮りに行こうか」
「いいね。いいね」
 などと盛り上がっている。勝手に。あたしを無視して。あたしをーっ。
「ちょ・・・っとぉーーー!!」
 握りしめた携帯には、まだあの「不幸の手紙」ならぬ「来ちゃ駄目だよメール」。見れば見るほど、行っちゃいけない寂しさと比例して無視された怒りが増し、結局それを持つ手は震えた。
「何勝手にーっ。何にも言ってないじゃんーーっ」
 何で勝手に決めつけるんだよー。きぃーーっ! と、携帯とフォークを持った両手でジタバタすると、それを見た二人は同時に呆れ顔になる。
「顔に書いてあるよ」
「違うなら今来たメールの内容言ってみな」
「・・・う・・・うぐ・・・」
 出てくる言葉は呻き声・・・みたいな物だけである。挑発されて何か言い返せれば我ながら大したものだと思うが、嘘一つ出てこない。
 代わりに涙が出そうだ。そしてプルプル肩を震わせたあたしを見て、しかし謝らなかったのが面白くなかったのか、二人は明後日の方を見て独り言のような二人言を言う。
「可哀想だなぁと思って」
「遊んで上げようと思ったのに」
「じゃあ、二人で遊びに行こうか」
「そうしようか」
「ごめんなさいすいませんでしたぁーーーっ!!!」
 だから遊びに連れてってーっ。置いていかないでー!!! と、机にガツンとぶつかりながら立って肩を揺すると、二人は同時に振り返って、ふんぞり返った。ふんっ、と鼻を鳴らして上から目線であたしを見て言う。
「初めから素直にそう言えばいいのに」
「全くだ」
「許して下さい。もうしません」
 しかし無条件降伏。な、あたし。他に何が出来ようか。
「分かれば宜しい」
「よきにはからえ」
「へへぇーっ」
 これもまた多分、生きていくための術なのだ。



 そして午後の授業が、そろそろ始まるという頃。
 何人かは昼寝や談笑を楽しみ、教室から出ていた生徒は戻り始め、人口密度が増してきた頃。
 そのメールは届いた。
「別に良いもん!! 康子ちゃんと尋ちゃんに遊んで貰うから!!!」
 ここは理数系校舎の一室。言うまでもないが、美優発信、早月着信メールである。
「・・・」
 何で俺が悪いみたいになってるんだろう。そう思いながら、携帯を閉じる。けれど、わざわざ正直な理由を書く辺り、それをしないと罪悪感を感じている自分も否定できないのだ。半端無く悲しい顔を、すぐするから。
 正直、困る。そうすると、無条件で悪いことをしている気になってしまう。それを無意識にやっている彼女に、かける言葉もないのだけれど。
 そして、教科書を出しながら思った。あの二人も大変だなぁー。と。
 多分、あの表情に同情したんだろう。と、想像に難くない。しかしまぁ、ある意味助かった。という気持ちが手伝い、先生がドアを開けた音に顔を上げ、早月はそのことを忘れることにした。同時刻、康子ちゃんと尋ちゃんが全く同じ事を考えていたなどと言うことは分かる術もなく。





目次 次へ
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。