3。

 それから数日の後。猫は飼い主の捜索により、家に戻った。
 聞くと、まだ生後間もないとのこと。
 そう言った飼い主のホッとした表情に、早月もホッとした。良い飼い主さんみたいだ。そう思って。



 その、夜。猫が帰った夜。
 しゅーん。美優は散々、構ってくれない猫には優しい確かに可愛いけどずるいよずるいよ。とか、ブツブツ言っていたくせに、いなくなったらなったらで悲しそうな顔をして元気がない。どうしてそうかなぁー。飼い主の元に帰ったことを喜べばいいのに。
 ま、そうは言っても別に想定外の出来事でもないわけでして。うん。こうなることは分かっていたのですよ。猫が帰ることも、美優が多分、寂しがるだろうことも、ね。相変わらず彼女は、本当に予想通りの行動で、面白くないやら安心するやら。
「おーい」
 それでも、だからって自分の部屋で変な空気を出さないで下さいよお願いだから。そう思いながら、座っている背もたれに寄りかかっている美優の頭を、こんこん叩いた。いい音がして、その音で目を覚ましたのか美優が顔を上げる。
「椅子下げるから、どけよ」
 大体は事後承諾か黙って椅子を下げるのだが、たまにこう言うと美優は「お願いしますって言えー」とか「まだ下げないで! まだ!」とか言いながら居座ったり慌てて離れたりする。
 ・・・でも、この時は無言。そしてとろとろ、まるであの子猫みたいに離れた。
「・・・お前なぁー」
 もー。どうしてそうかねぇ。と、ため息を付きながら早月は立ち上がり、美優に一枚の紙切れみたいなものを渡した。美優は早月を見上げたまま、不思議そうな顔をして、それを受け取る。そしてそれを見ようとして。
「死んだ訳じゃないんだからさー」という、早月の言葉に目を丸くした。
「しっっ!? ええ、縁起でもないこと、言うなーっ」
 きーっ。と、ヒステリックに叫んで、じたばた。うーん。予想通りの反応。とことん、予想通り。今時のゲームだって、ここまで単純じゃないぞって位単純だ。面白いような、面白くないような。でもやっぱり、面白いような。
「だったら、落ち込むんじゃないの」
「だ・・・」
 そうは言っても。
「・・・だってぇー・・・」
 分かってはいても、ただ単に寂しいらしい。再び、しゅーん。と、肩を落としたお隣さん。お前は夏休みが終わってお婆ちゃん家から帰ってきた小学生か。という状態である。いや、最近の小学生の方が、よっぽどドライかもしれない。
 それを見て、しょうがないなぁと思いつつ。
「・・・やれやれ」
 美優が手に持っているものを見ればちょっとは元気になるだろうと思い、加えて元気の元を作ってやる為、ドアに向かった。ここで分かり切っているやりとりをしてもしょうがない。
 それを見上げる美優の視線。ドアを閉める前、一瞬合ったけれども早月はそのまま部屋を後にした。ぱたん、と二人の間を塞ぐドアの音。だって、してやれることは何も無いし、ね。
 するとその直後。
 部屋から小さな歓喜の声が聞こえてきた。どうやら上手くいった模様。親猫のお腹を頭にして寝る、あの子猫の寝顔の写真を見たのだろう。声を聞く限り、もう大丈夫。
 そう思って、何だか安心して、早月は階段を下り始めた。安心すればしたで、本当にあいつはもう・・・という気持ちも、感じながら。けれどそれは、幸せの形。


 そしてミルクティーを持って再びドアを開けた早月の視線の先には、さっきとは違う表情の美優。
 落ち込んだことがが恥ずかしかったのか、それとも幸せに暖まったのか。
 ちょっと頬を染めて、笑った。





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