2。

「にゃー・・・」
 もしかして会話をしようとしているのだろうか。早月の膝の上から離れない猫を、美優は「にゃーにゃー」声掛けしながら、覗き込むようにして顔を近付ける。撫でるなり何なりすればいいのに、どうしてそういうコンタクトを取ろうとするのか。分からない。例えば返事があったとして、お前は理解できるのか? そんなに顔を近付けたら、引っかかれても知らないぞ。
 そうは思っても、結局何も言わない早月。何故なら似た者同士だから。絶対、そうだから。つまり子猫に引っかく芸当の一つでも出来れば、そもそも自分に慣れたりしない筈。よって、心配ない。ほらね、理路整然。故に、一匹と一人を黙って見下ろした。
「可愛いなぁー。子猫ちゃんだね」
 指で前足を撫でると、猫は猫じゃらしで遊ぼうとするかのように手を振り振りした。どうやら、彼女達のファーストコンタクトは無事終わった模様。
「どしたの? この子。飼うの?」
 体を起こせばいいのに、猫の目線のまま美優は早月を見上げて言う。
「どっかの飼い猫だよ。首輪してるし、やたら慣れてるし」
 だから返して上げたいんだけど、どこの猫か分からないんだよな・・・。そう呟きながら、早月は手を伸ばす。
 すると猫は待ってましたとばかりに、ごろごろと喉を鳴らして甘えた。確かに、ほぼ初対面とは思えない慣れっぷり。見ている限り、まさか今日・・・というかついさっき、保護したばっかりとは誰も思わないだろう。
 ほんとだー。と呟きながら、美優はやっと体を起こす。猫の意識が逸れたからかもしれない。そして、お隣さんと猫を黙って見ていた。
 暫し、ご満悦の猫の甘える声だけが部屋にフワフワ。
「気持ちよさそう・・・」
 そして美優はぽつりと呟き、やがて早月を見上げた。でも、早月は猫を見たまま。ごろごろごろごろ。喉を鳴らす猫を見たまま。無視。
 早月は、その言葉と美優の視線には、気付いては、いた。同感は同感。でも、無反応。気付かない振り。気付かない振り。無視、無視。どないせぇっちゅんだ、って話である。
 しかし美優は相当猫が羨ましかったのか、それとも無視されたのが面白くなかったのか、ぷくっと頬を膨らませると言った。
「・・・早月、子猫には優しいね」
「・・・は?」
 嫌味なのか敵対心なのか。・・・何にしても、どうしてそこで張り合おうとするのか。・・・理解できない。
「子猫にはって・・・お前なぁー」
 これ以上、お前は何を望んでるんだ。そう言いかけたが、そう言うと自分が気を使っている事を言うみたいで、そんなことを言いたくなくて止めた。恩着せがましいとかそういう気持ちよりも、ただ恥ずかしいからである。
「・・・お前と変わんないよ」
 子供で手が掛かるって点では。そう言う意味を込めてそう言い、そう思うとしょうがないので、早月は美優の頭を、それこそ猫にしてやるみたいに撫でてやった。さすがに喉をごろごろは理性が止めた。
「・・・」
 すると美優はそれを、どういう意味で受け取ったのかはともかく嬉しかったらしい。小さな、だらしない笑い声を洩らして早月の膝に、やっぱり猫みたいに手を乗っけて顔を伏せた。甘える猫にそっくりだ。やっぱり全然、変わらない。どうして猫と同じ様な扱いされて嬉しいのか、分からない。それで良いんだ? という気持ちを持て余しつつ、早月は無言。そんなことをいちいち突き止めていたら、それこそキリがないのである。
 ちっちゃな猫と、お隣さん。どうして膝の上に二つ乗っかっているのか。一つで十分なんだけど・・・例え、乗るとしても。
 そう思いながら、早月に為す術はない。よって、やはり無言。誰かどうにかしてくれー。と思いながら撫で撫でしたり、ゴロゴロさせたり、一人忙しい早月であった。





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